──別れるひとに──
私の猫はいつも暗い方をみつめている
いつも 後ろ姿
私の描く女は みな眼を閉じている
下を向いて
私のこころは いつも 少し うつむいている
私のワイングラスのふちはいつも溢れそう
風の吹くたび 漣 (さざなみ) が揺れる
冬の晴れた空の色を映して


ガラスの底の水藻の中には古い魚が棲む
やっぱり眼を閉じて
みじろぎもせず
そうやって ずっと永い間
ひっそりと そこに 沈んでいるのだ
私が まだ 少女だったころから ────



水藻は年々生い繁り
もはや 魚の姿を すっぽりと包んでしまったが
魚はときおり身をかすかにゆするので
グラスのふちから 溢れそうになるのだ
痛い 痛い 沁みるような水滴が ────

 

27歳のとき書いたもの。